師走の隅田川

季節外れのタイトルです。ここ数年浅草、下町界隈をずいぶんと散策した。浅草寺界隈はもとより、川向うの向島から昭和の風情が残る堀切まで一通りは歩いてみたがなぜか隅田川水上バスはいまだに乗っていない。今年はスカイツリー開業で人出は例年以上ということで、しばらくはお預けである。
吉行淳之介の「私の東京物語」には「師走の隅田川」という1959年のエッセイがあってここに水上バスの話が出てくる。東京新聞の依頼で隅田川をさかのぼってみるという趣向である。しかし当時の水上バスは12月、1月は日曜以外は休航で吉行氏はなんと水上警察の警備艇に乗る。
竹芝桟橋から勝鬨橋永代橋と上っていくコースは今と同じ。清洲橋あたりまでは倉庫が立ち並ぶとあるのは高度成長を前にした時代らしい。さて言問橋を過ぎたあたりで小さな船に乗った二人の男が「人が落ちた」といって警備艇を呼び止める。ここから話はのんびりした船旅から警備艇らしく?なっていくのだが、個人的にひっかかったのはその後。今度は火事である。白鬚橋のたもとから火が出ているという。
白鬚橋といえば、橋の東詰に昭和40年代から防災マンションで有名な都立アパートがつくられた。ちょうど数か月前に見に行っただけに、もし当時アパートがあったらどんなことになったのだろうかと縁起でもないことだが、想像してしまった。

ところでこの本、ブックオフに売ろうとしていた段ボールから取り出してきたもの。この春引っ越しを予定していたのだが、事情により取りやめとなって残っていた。
本は売らずに手元においておくのがいいとは多くの読書家が言っていることだが、今回その思いを強くした。とはいえ置き場所に困って仕方なく手放すことも多いのが現実ではあるが。